NDAとは 【秘密保持契約】 (Non-Disclosure Agreement) という意味だそうな。つまり、ある特定の秘密が漏れると困る場合に、秘密を提供する側と受ける側の双方で結ぶ契約です。ただし、ウェブサイト上でのNDA締結においては、その内容は秘密を提供する側からの一方的な要求であり、受け手が「それイヤだから契約内容を変えてくれ!」と言うことは不可能な場合がほとんどです。ウェブ上の「これを守るかい?」の質問に対しては、通常は「はい」と「いいえ」のボタンしか選択肢がありません。先へ進みたいが、その手法や内容に対しては意義を唱えたい場合でも、対応手段が用意されていないのが普通です。そんな状況で、MacやiPhone関連のデベロッパーも、ことある毎にウェブ上でApple社側とNDA(英語表記)を結ぶ機会に遭遇します。
ところで、英語表記のNDAですが、日本人のほとんどはその内容を読んでいないのではないでしょうか? つまり、長々と色々な事が書かれているようですが、誰もその内容を正確に知らないわけです。パッケージを開けたら自動的に締結される「ソフトウェア使用許諾契約」みたいなもんですね(笑)。私は法律の事は詳しくありませんが、素人考えとして、秘密を開示する側が不利にならないよう、ありとあらゆる条項が詰め込まれているのでしょう。まあ、細かい点は理解していないとしても、NDAの目的が「知り得た技術内容を公の場(雑誌とかウェブサイトとか不特定多数の集会など)で公開してはいけない」ことぐらいは理解できています。その点に関してだけは常識と言う事で、良い子のデベロッパーはそれを守ろうと一生懸命努力するわけです。
ここで、iPhone SDK β版の例を考えてみましょう。この開発用ソフトは、ADCオンライン会員(無料)以上であれば誰でもダウンロードできます。当然、ADC会員になる時やSDKのダウンロード時にNDAが結ばれます。ただし、メンバー認可の過程に何らかの選別や認証は存在しません(年齢制限だけ)。メールアドレスや住所を登録すれば誰でもなれるので、うちの奥さんでもOKです。当然、iPhone SDK β版に対しても「使用許諾契約」は必要でしょう。しかし、ほとんど誰でもダウンロードできるソフトの使用許諾にNDA(技術情報の開示の禁止)を含める必要があるのか?という疑問が残ります。ADC会員以外に秘密を漏らさないため? それは変ですよね。だって、ADC会員には誰でもなれるわけですから、秘密を欲しい人は参加してダウンロードするだけです。
それでは、他に何か理由があるのでしょうか?予想よりデキが悪いことがバレて騒がれたくない? それは情報開示側の問題でしょうね(笑)。それとも、マスコミに現状を湾曲して伝えられるのが嫌だから? そんな事は秘密事項でなくても良くあることです。逆に真実を隠した方が、不必要な憶測で事実を曲げられてしまう場合が多々あります。秘密にすることで、まだダウンロードしていない人の興味をあおり、ダウンロード数を伸ばすため? う〜ん、これは使えそうな作戦かもしれません(笑)。バレルことで秘密開示側が明らかな不利益を被る場合「秘密を得た特定の人」に対しNDAを結ぶという事は理解できるのですが、不特定多数の人が結ばなければいけないNDAの意味とはいったい何なのでしょうか?
WWDCの場合もそうです。WWDCはADC会員なら誰でも参加できます。やはり認証や選別はありません(年齢制限のみ)。ところで、WWDCへ参加すれば、もれなくApple社の新製品情報を入手できるでしょうか? 「 Snow Leopard」の販売開始日を知ることが可能でしょうか? iPhoneの出荷台数の各店舗への配分が分かり、販売日に入手するのに有利に働くでしょうか? そんな事はありません。今まで参加してきた私の個人的見解ですが 、外に漏れると「こりゃマズイな」と思うような情報開示は皆無なのです。事実、何年か前までのWWDCは、セッション内容に対してNDAはかかっていませんでした。では、何のためのNDAなのか? ライバルに最新テクノロジーの動向を知られたくないため? 冗談でしょ! WWDCにはマイクロソフト社員も数多く参加しており、セッション終了時に、Apple技術者に対しバリバリ質問を投げかけております(笑)。
デベロッパー側はDNAで厳しく縛られるのですが、その傍らでシーディング(テストパイロット)ソフトの情報はすぐにウェブサイトに流れますし、「Snow Leopard」のスクリーンショット(http://www.engadget.com/tag/SnowLeopard/)等も堂々とアップされ、その詳細な内容を詳しく掲載しているサイト(http://www.roughlydrafted.com/2008/06/23/ten-big-new-features-in-mac-os-x-snow-leopard/)まであります。こういうサイトに対しApple社は、速やかに法的処置を取ると思いきや、多くは野放し状態です。また、 Apple社のディスカッションボードで、(http://discussions.apple.com/forum.jspa?forumID=727)iPhone SDKの技術的な内容が頻繁に話されていたりもします。こういう状況を見るにつけて「興味をアオルため、いくらか漏れることを計算してNDA結ばせているのでは?」と勘ぐりたくなるのが正直なところです。
そしてWWDC終了後、MOSAで「WWDC参加者情報交換会」(対象は参加者のみ)を開催しようと企画した時です。毎年「WWDC報告会」と称して似たようなイベントを開催していたのですが、その企画の一部を変更したわけです。すると、すかさずアップルからクレームが入りました。 アップル曰く「WWDC期間中会場内であれば参加者同士が情報を交換することは問題ございませんが、WWDCを離れますと、WWDCで得た情報を交換できるのは同じ会社の同じプロジェクトに携わっている方でADC Online以上にご登録の方同士に限られます。参加者同士であってもこれに当たらない場合は情報を交換することはできません」だそうです。つまりこの企画は、NDA違反にあたる可能性があるそうです。「WWDC参加者同士の情報交換」もダメだと言うわけです。
ちょっと待ってください。 このアルゴリズムに準じれば、ツアーのホテルで同室になった参加者や、WWDCの帰りの飛行機で隣の席に座った参加者と仕事関連でWWDCがらみの話をするのも規約違反になります。それどころか、MOSA開催の現地パーティー(アップル関係者も参加)での情報交換も間違いなく規約違反です(笑)。Apple社は、デベロッパー1社から10人ぐらい参加していると思っているのでしょうか? うちはたった1人です(笑)高い旅費と参加費を払い(MacBook Air上位機種が買える)WWDCへ参加し、どう考えても、あのセッション量を1人でこなすのは不可能ですから、参加者同士(みんな似たような環境)が集まり、聞けなかったセッションの情報や感想を交換して仕事に生かそうと言うのが企画の趣旨です。「鉄は熱いうちに打て」ですね。
これは、ごく普通の考え方でしょう。 だいたい、我々の仕事とはMacやiPhone関連ですから、Apple社にとっても大きなメリットがあるわけです。もともと、WWDCとは、そうした目的のために開催されるカンファレンスでなわけで、これでは何のためのWWDCなのか? 誰のためのWWDCなのか? と言うことになってしまいます。 また、iPhone SDKは正規版になってもNDAが取れないという噂もあります。だとすると、iPhone開発関連の書籍や技術セミナー、加えて雑誌やウェブでの技術解説や議論などもすべてダメという事になります。iPhoneの場合、誰でもオープンにアプリケーションを開発できるのが素敵なわけですから、「やってみよう!」と思い立つ人達の間口を狭くするような愚行だけは止めていただきたいと思います(7月14日時点でSDKは正式版となりましたが、まだNDAは取れていません...)。
スティーブ、あなたの会社が世に出す製品は美しいです。ボタンもただひとつで操作も簡単、ユーザの才能や感性をうまく引き出します。しかし、あなたの会社が世に出すNDAは、まるで日本家電のリモコンのごとく、不必要な多くのボタンがユーザの才能や感性を阻害しています。
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