■手漉き和紙の上に表現したいもの

私は紙を漉く時、作品を制作する時、どこかに「時間」や「水の痕跡」を
残したいと思っています。
紙は水がなくてはできないものなのに、「紙」として仕上がった時に
水の存在を感じません。
繊維の層を重ねていく時間。水がその層を通っていく時間。
その結果として出てくる錆や色。
紙に入った鉄線の錆は水によって滲み出し、乾いた後も空気中の水分と反応しながら
ゆっくりとさび続けていくでしょう。その自然の文様も紙の層を通して見れたら、と思います。

この個展の為に制作した「対 a pair」は特にその想いが強い作品です。
漉き込まれた鉄線は「時間」と共に錆びていきます。
そして二つの円の一つだけが柿渋と言う素材で色を刻々と変えていきます。
自分の中の「変わっていくものと変わらないもの。変えられないもの。
変えたくないもの。」を表現したかったんです。
他の作品もそうですが、柿渋や鉄素材を使う事で、
水や時間によって変化していく様を、できる事ならば一瞬のものでなく、
長い時間をかけて誰かと関わって欲しいと考えています。

また、紙に限らず、異なった素材、そして相反するモチーフの組み合わせが好きです。
鉄と水、そして紙。一見平面に見える紙の中にもそういったものの重なりと奥行きを
表現できたらと思っています。


■灯のシリーズについて

灯りのシリーズは、まず使用している「紙」から始まりました。
オリジナルのこの紙の質感、色、表情を見るのに光を通す事を思いました。

また、私の中での「灯り」は「火」です。
私の中にある火のイメージのいくつかを表現できたらと考えます。
火にもいろいろあります。強く燃えさかる火、人をあたためる火、見えないところでも
わずかに揺らめきながら燃え続ける火。
暖かさや光、生命力のかけらのようなものを「紙」を通して表現できたらと思っています。


■創作ということ

ある方から「制作していていつが苦しくていつが楽しい?」と聞かれました。
その場では「作品を考える時が苦しくて、制作中は体がきつくて、
出来上がった時がやっぱり楽しい」と、お話しました。

でも、肝心な事を忘れていて、後日付け加えさせてもらいました。
「漉いてる時は心地いい」んです。水の感触と音がとても心地良いんです。
冬は手がしびれたり、荒れたりするし、寒がりな私にはどうかとも思う程なんですが、
漉いてる時はそんな事は忘れるくらい心地良いんです。
あんまりイライラしてると水もうまく流れてくれなくて、全く漉けないんですが、
ちょっとぐらいの嫌な気分は、知らない間になくなるのが不思議です。
水に中和してもらってるようです。
友人がちょっと読んだ本に書いてあったそうですが
「水は触る人によって分子のつながり方が変わる」んだそうです。
なんだか素直に納得できました。
これからも、心地よさを感じ続けられるようにと願っています。



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